この11月に東京都美術館で45回記念展を開催した近代日本美術協会。美術公募団体の中でも多種多様な賞を設けている会として知られるが、各賞はどのような基準で選出されるのか。今年の受賞作品を例に渡邉祥行理事長に語っていただき、45回記念展の模様と併せて紹介する。
展示スペースが倍に拡張、2点まで展示可能に
- 近代日本美術協会は「新槐樹社」を前身とし、会員の沼田稔夫が同会を退会して新たな美術団体を起こす形で1975年に発足した。以降、多彩な活動を展開し、秋に東京都美術館で開催される本展をはじめ、春季展、サムホール展、さまざまな地域を描く地展など、バラエティに富んだ公募展を開催している。今年45回目を迎えた本展も盛況のうちに終了。昨年より展示スペースが2倍の面積に拡張し、さらに見ごたえのある充実した展覧会になったと評判だ。
- 「それまでは、例えば初出品者は50号までという様な号数規制を設けていましたが、昨年からそれをなくし、また、ひとり1点しか展示しないという点数規制もなくして良い作品であれば2点まで展示可能となったので、それが効いたのでしょう。
- 今年の応募点数は500を超え、初めてデジタルアート作品も選に入りました」と渡邉理事長は語る。また新たに設けた小品部門のコーナーでは、来場客による審査投票を実施。こうした観者参加型の企画もこれまでにない試みだ。
理事長の渡邉祥行
認められた証として、次なる制作の励みに
- 近代日本美術協会では、近代日本美術大賞をトップに、内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、東京都知事賞、芸術文化功労章など、各スポンサー賞も含めると約30もの賞を設置している。
- 「評価されれば、やっぱり嬉しいし自信になる。賞というのは作家にとっては励みなんですよ。約500の出品点数なら、確率でいえば1割以上の人が受賞できるので、ちょっと頑張れば自分も手が届くかもしれない。そういうひとつの動機づけになればと思っています」
- 審査は公平を期すため氏名を秘匿し、作品のみで判断。何度も繰り返し審査をおこなった結果、賞候補に選別された作品の中から審査員が10作品ずつ選び、その投票数と新規性・創造性・完成度の3項目の点数との合計により各賞が決まっていく。近代日本美術大賞から東京都知事賞までの上位5賞は、内部審査員と同比率の外部審査員を交えて選出され、受賞者は翌年の審査員メンバーに加わるシステムだ。
- 「今年の近代日本美術大賞の後藤稔さんは、この15年間ずっと、役目を終えた貨車止めをモチーフに描き続けているんです。今年の作品は長年の思いが結集したような見事な絵。彼の代表作品になると思います。今回特別に設けた45回記念大賞は準グランプリに相当します。妙義山の奇岩の穴から景色が抜け、奥行きのある構図がいいですね。内閣総理大臣賞の作品は美しい色調がポイント。日本画は暗い絵が多いんですが、何とも言えない鮮やかな色で幻想的な印象です」
近代日本美術大賞 後藤稔「閑寂」
第45回記念大賞 本木茂子「大地の鼓動」
内閣総理大臣賞 河野長廣「静寂なる夜明け」
作品と人物を総合評価した「渡邉祥行賞」を新設置
- 「東京都知事賞」は日本各地に残る夏の行事である灯篭流しを描いたもの。幻想的でテーマ性の高い作品が選ばれた。「クリティック賞」は美術評論家により選ばれる賞で、具象・抽象作品各1点ずつ選ばれる。「選抜作家賞」は本格的デビューに向けた賞で、個展費用を会が全面的にバックアップ。今年は大阪で作家活動を行う古立章氏が選ばれ、すでに東京での個展開催が決まっているという。「芸術文化功労賞」は文字通り制作を通じて芸術文化に貢献した長老に、「近美未来賞」は将来有望な若手に賞金付きで贈られる。
東京都知事賞 武田典子「極楽道Ⅱ」
クリティック賞 長野雅彦 「antique」
選抜作家賞 古立 章「至福」
芸術文化功労賞 福田寛「分渓の初秋」
近美未来賞 吉田絵美「浮遊」
- さらに今年から新たに設けられたのが、理事長自らの名を冠した「渡邉祥行賞」だ。作品と併せて人物面も考慮し、後人育成や芸術文化の発展に寄与した作家に賞金と共に贈られる。初回の今回は、「白倉峡」を描いた櫻井聡氏が受賞した。
渡邉祥行賞 櫻井聡「白倉峡」
- 「小さいけれど緻密に描かれた、非常にいい絵。透明感があり、水の音や風が伝わってくるようです。筆一本で家族を養ってきた40代のプロの作家で、これまでの活動への敬意とこれからも頑張っていただきたいという思いを込めて選出しました」。
- 力試しやステップアップの足掛かりに、まずは新人賞から目標を定め挑戦してみてはいかがだろうか。
第45回記念 近代日本美術協会展 会場風景
(取材・構成=杉瀬由希)
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