artkoubo MAGAZINE
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[File70] Artist Group-風-
10年の節目で解散する美の学徒たち

2021/11/25 ※更新2022/6/15
主催の3人。左から中島千波、畠中光享、中野嘉之
大作公募という特徴でほかにない存在感を放ってきた「Artist Group-風-」は2021年10回展を迎え、今年の開催をもってその活動に幕を閉じる。立ち上げ当初から予定されていた10年という活動期間。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言があけて間もない東京都美術館の会場には、「風」の活動を楽しみにしてきたファンや受賞者・応募者が集まり、惜しむ声や感謝の声に包まれた。「風」は何を目ざし、成し遂げたのか。主宰の3人に話を聞いた。
●高い目標を掲げて
——10年で区切りというのは設立時から想定していたそうですね。
中野:結成した時からその話はしていました。
中島:それに付随して3人のうち誰か1人が亡くなったらやめようと。
畠中:そういう約束でしたね。
中島:約束してみたら、みんな長生きして。意外と死なないもんだね(笑)。
畠中:でも周りを見渡せば人が減っているし、なにより絵を描かない人が増えた。
中野:まあそういう点ではしつこい性格だね、この3人は。
——3人とも毎年「風」展に合わせて大作をつくってこられました。
中野:やっぱりこの10年間で、若い人と自分が一緒に並んで共演するっていうのは結構緊張します。この10年間は逆に助けられたなと思う。
畠中:こっちにとってはね、若い人に負けるかという気持ちがどこかにあるんですね。
中島:そうだね。表向きには若い人を盛り上げるというか、それは我々が若い時に先輩にやってもらったことを、今度は若い人に還元する展覧会ですね。と同時に今言ったように、若い力を利用して自分たちも競争してきた。
——これまでを振り返って、節目となる出来事はありますか。2017年度の第6回展からは、東京都美術館の地下からロビー階に会場を移すことになりました。
畠中:会場が広くなって、それまで7枚しか展示できなかったのが、倍以上とれるようになった。それだけ入選する人も増えました。大きな作品をつくって落選するのはやっぱりきついと思うんですよね。今時、3倍ぐらいの倍率で落ちるなんて、気の毒なもんです。
2021年10月23日-30日に東京都美術館で開かれた第10回展、会場の様子。最大7メートルの大作15点が並ぶ
●賞金に代わるもの
——「風」展は狭き門をあえて設定されていました。10年間続ける中では、何度も落ちてもまた挑戦する若い人たちもいたのではないかと思います。
畠中:ずっと出してくれた人はいましたね。ほとんど落ちていたけども、ずっと出してくれました。
——皆勤賞だからと、最後はちょっと審査を優しくしたところはあるんですか。
全員:全然ない。
中野:応募者の意識を高めるために、最初は「入選」としていたんですが、途中で「入賞」と変えましたね。大賞もなく、みな平等に入賞と。
中島:考えてみれば15名しか入らないんだから、それはやっぱり賞だね、と。
中野:大学で教授会に行くと、ほかの版画や彫刻でもいろんな賞があるのを聞くんですよ。賞を取った人は奨学金が取れるんですよね。でも作品をくらべたら「風」の方がレベルが高いだろうという自信がこちらにはあって、だからセレクトされたときに、賞をとったという意識でいいんだと。
——賞金こそ出ないですけれども、高島屋では「風」に連携した受賞者による小品展「花信風」をされるのが恒例でした。日本橋のほか、大阪、京都にも巡回をして。
中島:これまでの私たちとのつながりもありますが、高島屋も「若い人を応援したい」と一緒に協力してくれているんです。
中野:やっぱり作家としては、そういう展覧会に出しながら自分の作品を広めていくチャンスだからね。
中島:最後となる春先の高島屋の小品展は、過去10回の入賞者をみな集めて、これまでより大きな会場で開く予定です。過去のすべての受賞者は60人ほどいるんですが、いま声をかけていているところです。
——そういった機会から、また縁が広がっていきますね。
中島:百貨店の立場を考えれば、商売を度外視した企画です。でも小品展をきっかけに個展につながることも増えていました。
畠中:「風」のあとに「東山魁夷記念 日経日本画大賞」を受賞する人も目に付いたね。
中野:大きな作品を描いているから、それだけ目に留まるんでしょうね。
受賞作家と招待審査員の草薙奈津子さん(右)
作品を前に自作を解説するアーティストトーク。小柳景義さんの《甲斐山高神代丿樹》は、あいおいニッセイ同和損保奨励賞
●協力者たち
——10年続けるなかの変化のひとつに、6回展からは特別招待審査員を制度として設けられました。
畠中:この3人と違う目が入ってくる意味は大きかったと思います。しかも招待審査員は毎年同じ人ではなくて、年ごとに変えてきました。
中島:審査の公平性を担保すること。それにきちんとした評論家に図録に書いてもらう選評は、受賞者の励みや勉強になったはずです。
畠中:ほとんどお金なんか出さんとね。
畠中:いや本当に、原稿料は出してないよね。審査の謝礼くらいかな。
——招待審査員も「風」の志に共感してくださったんですね。
中野:たくさんの評論家の先生方が「風」に来て、それぞれ特徴がある目でみてくれたよかった。
畠中:作品の捉え方も違うからね。
中島:招待審査員も協力してくれたし、東京都美術館も、我々の応援してくれました。会場の選択も本来なら何十年と長く続けている団体の方が発言力は強いはずだから。今回で終わりですと伝えたら、困惑していましたよ。え、もう終わるんですかって(笑)。
中島:招待審査員とは別に、主宰者として参加する人を増やそうと、途中で呼びかけたこともあったんですよ。
畠中:でもほかの人はみんな続かんようになったね。
中野:やっぱり運営のために自分も出資しなきゃいけないとなると嫌となるみたい。上手に断られる。
——運用していくとなると、お金のことを計算することも大事なことですよね。
中島:大事ですよ。絵描きはなんでもやってもらおうと思っているから。でも我々もそうだった。
畠中:やってもらうことも当たり前だと思っているよね。やっとわかった、いや、初めて大人になりました。審査員に声をかけて、パーティーもやり、図録も作り、広告を手配して。大変なことです。中島さんのご家族が事務局となってずっと支えてくれた。主催の3人は何をするべきかもふくめた具体的な気持ちがあったわけですけども、この業界でこれくらいぴったり意志が合うことは珍しいんじゃないかな。
中島:少ないメンバーで、余計な外野がいないことはむしろよかった。たとえば画商が入ると商売気が強くなってしまうし。核となる人数は自然と絞られるものです。今ある団体展はみんな、前身となる団体があって、こんなんじゃダメだって離合して新しく立ち上げてきた。設立時は大体5〜10人ですね。
中野:続けるうちに関わる人が増えて、いつの間にか親分子分みたいなしがらみができる。
中島:人間ってそういうもんですよ。だからそれを作らないためには、やっぱり10年ぐらいでちょうどいいと思います。
——本当に気持ちがいい幕切れですね。
  • 「Artist Group-風-」の活動は、締めくくりの段階を迎えているが、この10年で育ったアーティストたちからは新しい動きも生まれている。
  • 入賞作家の佐々木真士さんは受賞作家に声をかけて、関西では「NIHONGA〇ーen-」というグループを新しく立ち上げた。第1回のグループ展を、京都の京セラ美術館で2022年4月に開催、その先の3回目のグループ展は東京での開催を目指している。出品作は大作で募る。
  • 同様の動きが東京のアーティストでも計画されているという。
  • 「大作となると関西から東京に作品を移動するだけでもお金や負担がかかる。それでもやりたい、という人たちが集まった。いろんな縁がつながって、「風」で学んだことを広げていけたら」と佐々木さんは語る。風が運んだ種子たちがいま、芽吹き始める。
《一木の影》を前に、佐々木真士さんによるアーティストトーク
(取材・構成=竹見洋一郎)
展覧会情報
 Artist Group-風-
※終了致しました。
  • ◆第10回 花信風Artist Group-風-小品展
  • 髙島屋6階美術画廊(日本橋店・大阪店・京都店)にて開催となります。
  • 東京展 2022年1/10(月)~18(火)※東京展のみ月曜始まりになります。
  • 京都展 2022年2/2(水)~8(火)
  • 大阪展 2022年2/16(水)~22(火)
  • ◆1回~10回展の入賞者を集めた小品展も開催予定です。
  • ※こちらは大阪店が横浜店での開催に変更になっています。
  • 髙島屋美術部(日本橋・京都・横浜)
  • 花信風 Artist Group-風-最終章
  • 東京展 2022年3/30(水)~4/5(火)
  • 京都展 2022年4/27(水)~5/3(火)
  • 横浜展 2022年5/25(水)~5/31(火)
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