太平洋美術会 創立127年を迎える今なお、伝統と進取の精神で新しい表現を目指す

2016/3/31
国内で最も伝統ある洋画団体として、多くの作家を輩出してきた太平洋美術会。同会が創設時より矜持としてきた制作理念とは、
どういったものなのだろうか。 第112回の公募展を前に、理事の佐田昌治に聞いた。
佐田昌治[さたしょうじ]
昭和21(1946)年、東京都生まれ。昭和38(1963)年より太平洋美術研究所で学び、昭和42(1967)年、第63回太平洋展初受賞。現在、同会常務理事。
日本洋画史の幕開けとともに
すでに幕末より導入が始まっていた西洋の美術表現。それが決定的に発展する契機となったのは、明治8(1875)年、工部省が創設した日本初の美術教育機関「工部美術学校」である。ここで開校からの3年間を絵画指導に当たったアントニオ・フォンタネージのもとには、浅井忠、小山正太郎、松岡寿、五姓田義松、山本芳翠といったそうそうたる才能が結集、新時代の絵画技術を身に付けていった。
明治11(1878)年、東京帝国大学に就任したアーネスト・フェノロサは、日本美術に魅せられるあまり、岡倉天心とともに洋画排斥運動を展開。この急激な運動への反発から、明治22(1889)年、浅井忠や小山正太郎らにより、洋画制作を積極的に推進する「明治美術会」が結成された。これが「太平洋美術会」の前身である。
工部美術学校で助教授となり、その後自身の画塾を開いた小山正太郎は、フォンタネージ直伝の絵画教育を徹底した。なかでも小山が「道路山水」と名付けて広めた鉛筆と紙による風景スケッチの技法は、同会の作風に大きな影響を与えるものであった。
(左)小山正太郎《笹井村》鉛筆・紙 明治25(1892)年 宮城県美術館
(右)中村不折《氷川村農家》鉛筆・紙 台東区立書道博物館
(左)満谷国四郎《橋のある風景》水彩・鉛筆・紙 明治25〜33(1892〜1900)年頃 東京文化財研究所
(右)鹿子木孟郎《綾瀬》鉛筆・紙 明治26(1893)年 府中市美術館
正統派アカデミズムを継承
後続の門下生たちは次々と欧米へ留学し、さらなる新しい潮流を日本にもたらした。うち、フランスへ渡った画家たちが学んだのが、ミュシャ、マティスなど著名画家を多数輩出したパリの画塾「アカデミー・ジュリアン」である。ここで彼らは教官のジャン=ポール・ローランスより、正統派アカデミズムの流れを汲んだ油彩画を習得していく。特に中村不折や鹿子木孟郎らの卓越した描写力は、並みいる欧米人学生をしのぐ評価を集めたという。
明治37(1904)年、太平洋美術会(当時の名称は「太平洋画会」)が開設した「太平洋美術研究所」では、アカデミー・ジュリアンのカリキュラムを導入し、現在まで脈々と継承してきた。その制作理念は、鉛筆画によるデッサン力の研鑽を基本としている。
同会常務理事の佐田昌治も、16歳から研究所に学び、先達からの手ほどきを受けてきた一人だ。「入ってすぐに、人体デッサンやクロッキーを基本に、鉛筆デッサンの基本を教えられました。表層的な演出に頼ることなく、モデルの本質に迫るような描写をすることは、難しい課題です」。
佐田が理想とするのは、同研究所所蔵の中村不折による老人のデッサンである。「背景は白いままなのに、精緻な描写のなかに老人の美しさや尊厳までもが表されている。デッサンでありながら、これ以上の“作品”も、ちょっとないのではないかと思います」
中村不折のデッサン《老人》。
事務室の壁面には、草創期の会員たちである佐々木義雄、堀進二、中村不折、坂本繁二郎などの貴重なデッサンが展示されている。
別の壁面。右は堀進二、左は『智恵子抄』で知られる長沼(高村)智恵子のもの。
天窓から自然光が降り注ぐ、広いアトリエ。
版画室(左)と彫塑室(右)。
会員・会友・学生それぞれの希望分野に応じた、充実した設備が揃う。
さらに新しい時代へ
現在も同研究所では、毎日裸婦モデルを招いており、会員たちは油彩や水彩、彫刻、版画など、思い思いの制作に取り組んでいる。正確な描写力を重視しながらも、個々の作家としての特性を尊重した指導からは、坂本繁二郎、中村彝、古賀春江、靉光、松本竣介、有本利夫など多くの個性的な作家が生まれてきた。
太平洋美術会の第112回となる公募展は、5月に開催される。日本の洋画史の胎動期より、進取の精神を貫いてきた伝統ある団体は、さらに新しい時代へと歩みを進めている。
(取材・構成=合田真子)
(左)中村直弘《時空》油彩 第111回展 文部科学大臣賞
(中)古賀知雄《追求》油彩 第111回展 布施信太郎賞
(右)井石千香子《ドイツの小さな街の冬》油彩 第111回展 椿悦至賞
(左)嶋谷宗泰《浜通りの朝》染色 第111回展 荒川区長賞
(中)鳥屋尚行《光へ》彫刻 第111回展 会員秀作賞
(右)久垣トシ子《希望》版画 第111回展 太平洋美術会賞
◆アート公募内関連記事

[file5]結成以来1世紀あまり。日本美術史に刻まれた大きな流れ

http://www.artkoubo.jp/magazine/artmag_0005.html
公募情報
太平洋美術会
第112回太平洋展
2016年5月11日(水) ~ 23日(月) ※休館日5月17日(火)
国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
種類・
点数
自作未発表の油彩、水彩、版画、彫刻、染織作品。
各種別とも点数制限なし。
作品の
大きさ
油彩(30号以上500号まで)、水彩(30号以上80号まで)、
版画・染織は特に制限しないが壁面に耐えられる大きさとし、
彫刻は美術館規定による。
額装のガラスは不可(アクリルは可)。
なお、一般者のみ対象として、
油彩・水彩・パステルなどで「20号限定サイズ作品」を募集。
搬入日時 2016年5月2日(月) 10:00〜15:00
出品 各種別とも一部門につき2点まで一般は11,500円、
会員・会友は13,500円(カラー図録代・送料含む)。
会員・会友・一般とも1点増すごとに2,000円加算。
「20号限定サイズ作品」も一般と全て同じ。
※その他詳細は、太平洋美術会ホームページ参照。

第112回太平洋展
ART公募内公募情報 http://www.artkoubo.jp/taiheiyobijutsu/d_koubo.php
団体問合せ
一般社団法人 太平洋美術会
03-3821-4100
03-3821-7139
http://www.taiheiyobijutu.or.jp/



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