artkoubo MAGAZINE
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[File83] 汎美術協会
「すべての作家は平等である」という理念のもと、意欲的・多彩な現代美術作家の表現・作品を自由に発表できる場を提供する。

2023/11/21
1933年(昭和8年)に設立され、約90年の歴史を持つ汎美術協会。創立以来、公平性を重視し、「すべての作家は平等である」との考えから無鑑査・無審査・無表彰の展覧会を開催している。東京都美術館で開催中の「2023 汎美秋季展」(2023年9月28日~10月5日)会場で、代表の中西祥司氏に話を伺った。
―汎美術協会は「自由な表現と発表の場」の創設を目指して創立されたと伺いました。どのような背景があったのでしょうか。

(左)代表の中西祥司先生

(右)事務局長のいなずみくみこ先生

  •  汎美術協会は、1933年に「新興独立美術協会」として創立されました(1946年に汎美術協会と改称)。
  •  創立前年の1932年、日本は国際連盟を脱退し、軍の政治力が強まり、戦争に向かっていく時代でした。美術界も官展・文展を頂点に美術権力機構が整備、強化されていきました。その風潮に異を唱え、階層性を廃した自由な表現と発表の場を創設することを目指し、美術運動を開始したのが汎美術協会です。
  •  当時すでに新しい美術運動を開始した独立美術協会があり、それに対しさらに斬新なことをやろうとして立ち上げた団体でした。公平・平等な組織運営をする会として、その信念を今の時代にどう生かしていけるか、考えながら活動しています。
―汎美展はその理念を体現化するための活動ということですね。公募展としては非常に珍しい取り組みをなさっています。
コラージュと絵画作品
  •  画廊やギャラリー等で展示活動をしているような作家にとって国公立美術館への出品はハードルが高いものですが、汎美は会員の推薦があれば出品でき、作品は無鑑査・無審査で展示されます。入選とか落選とか作品の優劣をつける審査はしません。ですから文科大臣賞や汎美賞など賞はありません。これは、すべての作家は平等であるという理念に基づいており、階層制を廃しています。
  •  「自由な表現、自由な発表の場の創設」は大切な理念です。作品のコンセプトや内容を問われることはありません。国立新美術館や東京都美術館での平面作品の展示であれば、幅5m✕高さ4.8m以内なら、作品の大きさや点数も基本的に自由です。
  • こうした基本方針は、フランスの「アンデパンダン展」で提示された「すべての作家は平等である」という考えに学んだものです。
  •  これも汎美術協会ならではの特徴ですが、展示位置は出品者参加のオンライン抽選会で公平に決めています。抽選の結果、会場の一番目立つ場所に初出品の作家の作品が展示されるということもあり、作品のジャンルによる区別もなく抽選するので、作品の種別や作品サイズの大小など入り混じり、変化に富んだユニークな展覧会空間になっていると思います。
―絵画や立体造形作品に留まらず、キルトやコラージュ、プリントなど、幅広い作品がランダムに展示され、テーマも様々で見応えがありました。
  •  どの美術団体にも共通の問題として会員の高齢化が進み、ベテラン作家が出品できなくなってきて、若手作家の出品を待望しています。いろいろ工夫もしていますが、汎美に興味を持ってくれる若手作家も徐々に増えていて、継続して出品してくれる作家も増えつつあります。
  •  そういう若手作家が個性的な作品を発表していることも幅が広がる結果になっていると思います。また、他の公募展では出品しづらい作品が多いことも展示を面白くしてますね。
  •  昨年の2022ヴェネツィア・ビエンナーレで発表された表現・作品は多種多様で、映像を使ったインスタレーションや音楽とのコラボレーションなど、様々な試みが行われていました。ポーランド館ではロマの生活を表現したキルト作品が館内の壁全面に展示しされ、それはキルト作品が現代美術の仲間だと認められた証でした。
  •  今、定義できないのが現代美術と言われており、汎美展もそうした現代美術のエッセンスが詰まった展覧会になるよう、多種多様な作品が並ぶような工夫をしています。作品とパフォーマンスを一体化させた展示など、異なる表現とのコラボレーション企画にも取り組んでいます。
インスタレーションと絵画作品
―今回は音楽とのコラボ企画にも取り組まれたそうですね。
  •  美術と音楽のコラボレーションは、汎美展では初の試みでした。出品者の作品に合わせてマリンバの作曲者に曲を作ってもらって、作品を大きなスクリーンに映しながら生演奏する会を開催しました。新型コロナやインフルエンザの感染症が拡がる中、平日の昼間ということもあって不安でしたが、約170名もの人が集まってくれて、「面白かった」と大好評でした。
  • 作曲をしてくださった吉岡孝悦氏は、絵画からインスピレーションを得て作曲する仕事を5年ほど前からやっている方で、吉岡氏のほうからコラボレーションのご提案をいただいたことがそもそものきっかけでした。
  • また、これも昨年のヴェネツィア・ビエンナーレの話になりますが、日本館では映像インスタレーションの作品に合わせて坂本龍一氏が作曲した音楽を流していました。オーストラリア館では大きなスクリーンに映像を投影して、その前でギターの生演奏をするなどのコラボレーションを行っていたのです。
  • こうした企画には相互作用があり、美術表現がさらに増幅されるなど面白い効果があると感じています。また、作品を大きく映すことでタッチがくっきり見えたり、ダイナミズムが感じられるなど、通常とは違った見方ができるという利点もあります。出品者も自分の作品がオリジナルの曲とともに投影されて、ひじょうに感激していました。
演奏:吉岡孝悦・宮本典子 作曲:吉岡孝

水飼晴香さんの作品

https://youtu.be/VI31X474Fdk?si=5q-p2R-MRnYPiK2o

中西祥司さんの作品

https://www.youtube.com/watch?v=5uhvt6RNbWo

―ところで無表彰ということですが、出品者に対してどのようなバックアップをされていますか。
  •  「すべての作家は公平・平等である」という考えのもと、作品の優劣を評価することはしていません。その代わりに、相互批評を大切にしています。まず、作品を展示した日に「作品の前で語り合う会」を開いて、希望する作家の作品の前で出品者同士が忌憚のない意見交換を行います。
  •  また、美術館行事として一般の人向けの「ギャラリートーク」を開催しています、ここでも外部の人を交えたディスカッションを通じて、作家が色々な人の感想や意見を聞く機会になっています。
  •  さらに、多摩美術大学絵画科名誉教授の堀浩哉先生による講評会を実施しています。出品者の作品が少しでもアートに芸術に近づけるように、1人ずつ10分前後の時間でアドバイスをもらえるようにしています。「作家の現在の到達点から先に行くために……」から「より具体的な手法」まで、様々なアドバイスが受けられます。
  •  相互批評や講評を通じて自分の作家感や作品を客観的に理解する切っ掛けになり、次の作品への課題が見つかり、制作意欲が高まるなどの効果があります。特に講評会を始めてから、講評を受けた作家や作品のクオリティがアップし、より魅力的な作品になってきています。また、回を重ねるうちに自身の作品のコンセプトや技法などについてのプレゼンテーションがうまくなるという利点もあります。
  •  講評やアドバイスを聞いている一般の参加者からも「美術や作品についてわかりやすく話されているので、よく理解できて面白い」という感想を頂くなど、汎美展の注目企画になっています。
多摩美術大学絵画科名誉教授 堀浩哉氏による講評会
―小品コーナーは一つのギャラリーのような雰囲気を感じましたが……
  •  前回の秋季展から、主に若手作家に気軽に参加してもらえるように、S20号以下の作品を3点まで展示できる小品コーナーを設けています。
  •  一般出品者・シニア会員は出品料1万円、30歳未満は半額の5,000円。大きな作品(本展)を出品する作家は小品コーナーに無料で出品できるというものです。出品への敷居を低くしたことで、若い作家にとって大きなメリットになり、出品者が増えていると思います。
  •  今回、小品のみを出品した20代の作家は「次回は大きな作品にチャレンジしたい」と意気込みを語ってくれました。一度参加すると汎美展の魅力、面白さを分かるようで、大きな作品(本展)にもチャレンジする意欲が湧くようです。
  •  小品だからこそできる表現や手法の作品もあり、バラエティに富んだ充実した展示になったと思います。一つのギャラリーのような雰囲気になっているとすれば大成功ですね。
  •  この小品コーナーは来春の国立新美術館でも継続できるよう検討中です。
―汎美術協会について今後の展望をお聞かせください。
  •  2024年はコロナ禍で延期になっていた海外での展示会を開催予定です。2020年6月にブリュッセルのギャラリーで予定していたベルギー展開催の直前、コロナ禍に見舞われてしまい渡航不能になりました。改めて2024年9月にモンスで開催することになり、汎美展に参加してくれているベルギー人と一緒に準備を進めているところです。
  •  2022年のヴェネツィア・ビエンナーレで具現化されているように、現代美術は変容を続け、多種多様性な表現・作品が生まれています。それは時代の流れの必然であり、そういう作家・作品を取り込んだ美術活動・展覧会を継続し、発展させていきたいと考えています。
  •  最近は、インターネットで当会のことを知り、問い合わせをしてくれる作家も増えています。意欲的に美術活動をしていきたいと考えている作家の参加を期待しています。汎美術協会はこれからも自由な表現と自由な発表の場の創設を実践し、作家が自らの表現を多角的に展開できるような活動の場を提供できるよう、国立新美術館での「汎美展」、東京都美術館での「汎美秋季展」など展覧会活動を中心に多様な企画を実施していく予定です。
(文・構成=中山薫)
  • ~今回初出品された方の作品と感想をご紹介します。~
  • 三和立佳
  •  旅行先やふだんの生活の中で撮った風景、食べ物の写真を使って制作しています。「きれいだな」「これはおいしかった」など写真を撮った時の気持ちを原動力に、拡大・縮小、明度・彩度を変えて、撮った写真からは想像できない別の形に変えています。
  •  必ず青色を使うことと、AIの機能を使わないことにこだわっています。制作時間は8〜32時間ほどで、被写体の組み合わせによってできるものが変わっていくのが面白いなと思っています。
  •  今回、初めて美術館に出品しました。これまで数少ない友人に見せていた作品をたくさんの人に見てもらうことで、いい刺激になったと思います。自宅と美術館の広い空間とでは作品の見え方が全く違って、他の出品者の作品と見比べた時に作品の大きさが持つ力を知ることができました。
  •  次回はより大きな作品に挑戦したいです。平面の時点で面白い抽象画を立体作品にしたら、見る人に与えられる印象が変わるんじゃないかと、立体作品にも挑戦してみたいと思っています。壁や凹凸のあるものに作品を投影するような展示もしてみたいと思います。

(左)三和立佳「火花」

(右)「波」

  • 伊藤雪乃
  •  自分が所属している団体や自分自身をテーマに、アクリル絵の具で生き物を描こうと決めてから制作を始めました。動物園や水族館、植物園などを訪れてさまざまな種類を観察し、具体的なイメージを膨らませて構図を練りました。
  •  いざ東京都美術館に展示してみると、小品コーナーということもあって自身の作品が小さく感じ、実力を突き付けられた思いでした。が、それと同時に素晴らしい作品が展示されている中に自分がいるということがとても感慨深く、胸がいっぱいになりました。来館された方や汎美術協会の作家さんからの反応や感想を直接いただくこともでき、貴重な体験になりました。
  •  
  •  これを機にアクリル絵の具の表現の幅を広げ、大きな作品にも挑戦していきたいです。観る人に寄り添うような、肯定するような表現を目指していく中で、自身との向き合いがまだまだ足りていないので、経験値を増やしたいです。他の作家さんとの共同制作なども目指しています。自分と違う作風の方と共につくり上げることを通して、新しい視点や表現が得られるものがあるのではないかと思います。

(左)伊藤雪乃「第一歩」

(右)「流れる星」

展覧会情報
 汎美術協会
  • 2024年汎美術協会
  • 日程
  • 2024年3月6日(水)−18日(月) 休館日3月12日(火)
  • 会場
  • 国立新美術館 展示室1A(1階)
  • 種類・点数
  • 絵画、版画、写真、彫刻、オブジェ、インスタレーション等
  • 未発表の作品に限る(個展出品作は可)
  • 平面作品は合計で幅5.5m×高さ4.8m
  • 立体作品は床面3.5m×3.5m以内
  • 点数制限なし(下限は30号以上、合計60号以上)
  • 搬入時間
  • 2024年3月3日(日) 10:00−13:00(予定)
  • 出品料
  • 20,000円(一般出品者)30歳未満は半額
  • 応募方法
  • 会員または運営委員会の推薦が必要ですが、
  • 出品作に対する審査はありません。
  • 当会の考え方や活動等に賛同し、出品を希望する方は、下記事務局に画歴と作品のコピーをお送りください。運営委員会にて検討させていただき、結果をお知らせします。
  • ホームページからの申し込みは
  • 「汎美展」を運営する美術団体「汎美術協会」 (hanbi.jp)
  • (なお、応募書類は返却しません。予めご承知おきください。)
ART公募内公募情報 | 汎美術協会 https://www.artkoubo.jp/hanbi/
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