- 大正初期に国内初の女性画家団体として発足した朱葉会。第一回朱葉会展が1919年に開催され、2022年に100回展を迎えた。100回展を振り返り、文部科学大臣賞を受賞した古谷由美子先生、第100回記念朱葉会大賞を受賞した村上洋子先生(朱葉会理事)に話を聞いた。
2022年5月に朱葉会100回展を開催
―今回の受賞作品について、教えてください。
古谷:「アカンサス」という植物の葉を描いた作品です。アカンサスは古代ギリシャで神聖なものとされていた植物で、建築のモチーフとしても使われています。私はこのアカンサスが大好きで、勤務先の花壇に植え毎日目にしています。天に向かってまっすぐ伸びる姿が潔く、冬でも青々とした葉を茂らせ咲く花の準備をしています。アカンサスを見ていると、「自分もこう生きたい」という気持ちなります。「アカンサスを描きたい」と思いながら、なかなか向き合えずにいたのですが、今回、何か特別なきっかけがあったわけではないのですが、初めてアカンサスを描いてみようという気持ちになり、チャレンジしたのが「Acanthus 2022」です。
第100回 文部科学大臣賞
古谷 由美子「Acanthus 2022」
村上:私は今回、明るい未来に向かっていくイメージの作品をつくりたいと考えました。いつも構図にこだわり、人物をテーマに描いています。雲肌麻紙に人物を大量に墨で描き、それを切って地塗りした下地に貼付け、さらに墨や水干絵具などで描いて仕上げています。今回の受賞は自分にとって本当に意外で、うれしい気持ちよりも、驚きの方が強かったですね。良い意味でのプレッシャーが大きかったです。
第100回記念朱葉会大賞
村上 洋子「黎明 -Reimei-」
―100回展という記念の年に受賞されたことの重みのようなものはありましたか?
村上:皆で、「100回展まではがんばろう」と励まし合ってきたので、それが今回でひと段落しました。ここでモチベーションを落とさず、101回を新たな歴史の1回目として、次の目標に向かっていかなければならないと思っています。受賞にあたって、これから、今まで以上にがんばらなければいけないと気を引き締めています。
古谷:私はこれまで、朱葉会の先生方が「100回展を成功させよう」と熱心に準備されているのを間近で見てきました。皆さんの強い意気込みのようなものを肌で感じて、「では私にできることは何だろうか」と考えた時に、「この100回展で、見ごたえのある作品をつくることだ」と思い、制作に打ち込みました。ですから今回の受賞は本当にうれしかったです。
―制作中のお話をお聞かせください。
古谷:私は油絵を始めてまだ15年で経験が少ないので、いろいろな先生にお会いして、作品のアドバイスをいただきました。どの先生も、良いところを見つけて褒めて伸ばしてくださるので、ほんとうに温かい会だと感じています。
「その人の良いところを見つけて褒める」
村上:皆で「この人ここを伸ばせばもっと良くなるよね」などとよく話しています。どの作品にも必ず良いところがあるので、朱葉会ではその人が伸びるための前向きなアドバイスをしています。
古谷:今回、村上先生には、「違うモチーフにチャレンジしてみたら」とアドバイスをいただきました。今まで植物を描いてきましたが、皆さんに力をいただき、これから、もっと色々なものを描いてみたいと思うようになりました。朱葉会は上下関係がなく、本当に優しい方ばかりです。
―朱葉会に入ったきっかけを教えてください。
古谷:子どもの頃から絵を描くのが好きで、絵画教室に通っていました。そこでお姉さんたちが油絵を描いているのを見て憧れて…。いつか自分も油絵を描いてみたいという思いがずっと心の中にありました。油絵を始めたのは、子育てが一段落してからです。息子が高校生になったタイミングで油絵を習い始めました。教えてくださった先生が朱葉会の会員だったご縁で出品しました。はじめは「油絵を始めたばかりの私が入選できるのかしら」と遠慮していたのですが、恩師が勧めてくださったので、思い切って飛び込んでみました。
村上:先輩に誘われ卒業制作を出品したのが初公募展でした。「朱葉会」があったので社会人になっても目標ができ制作し続けてこられたと思います。
古谷:もし過去の私のように迷っている人がいたら、ぜひ背中を押してあげたいですね。私は歯科医師をしているのですが、仕事とは別に、絵を通した友人ができるのはほんとうにうれしいことです。コロナ禍で懇親会は開催されていませんが、朱葉会展の準備などでたくさんの方と知り合うことができ、絵を描くという共通項があるからか、すぐに親しくなれました。絵の話ができる人がいるのは、いいものですね。油絵を始めて、朱葉会に入ったことで、モノトーンだった日常が、たくさんの色で彩られるようになったように感じました。
村上:朱葉会は女性だけの団体なので、女性ならではの悩みの寄り添い、励ましてくれる仲間がいるのが良いところですね。私自身も仕事や介護と制作の両立はほんとうに大変で、朱葉会に入っていなかったら今はもう絵を描いていなかったと思います。事情があれば、できないことを否定するのではなく、「どうやったらこの人が絵を続けられるだろうか」と考えるのが朱葉会の良さだと思っています。
―最後に、これからチャレンジしようとされている方にメッセージをお願いします。
古谷:やはり、都美館に自分の作品が飾られるというのは、すごいことです。その経験を皆さんにも味わっていただきたいです。自分の部屋で見るのと、都美館の壁に飾られているのを見るのは全く違いますし、皆さんの作品の中に一緒に展示されることは、ほんとうに勉強になります。ハードルが高いと感じるかもしれませんが、飛び越えてしまうと、案外ハードルが高くなかったと思うかもしれません。興味があれば、ぜひ一緒にがんばりましょう。
村上:朱葉会は、皆で一緒に成長していくことを目指しているので、絵を始めたばかりの方も大歓迎です。敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちはこれまで先輩方が培ってきた穏やかな雰囲気を守り続けている温かい会なので、興味があればぜひ門を叩いてほしいです。絵は一人で描くものですが、それを見てもらう場があると、世界が変わってくるので、まずは一歩踏み出してほしいですね。また、朱葉会展もぜひ見に来ていただいて、そこから雰囲気を感じ取っていただけたらと思います。公募に出すかどうか悩んでいる方がいらっしゃったら、勉強会に参加して相談していただいてもと思います。勉強会は毎年、年2回開催しているので、ホームページをチェックしてみてください。そのほか、何か聞きたいことがあれば、いつでもお気軽に問い合わせてください。
(取材・構成=村串沙夜子)
第100回記念朱葉会展受賞作品
東京都議会議長賞 菊池薫「夢の行方V「for children」」
第100回記念朱葉会特別賞 井野陽子「洋上のおもいで」
第100回記念朱葉会特別賞 井上寛子「コプトの晴れ着」
朱葉会賞 名嘉真麻希「ああ皐月 みんな雛罌粟 我も雛罌粟」
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