1957年に設立された新協美術会は、絵画・写真・工芸・彫刻の4部門を擁する全国組織の美術団体だ。「自由で公平な運営」を理念に掲げ、伝統と革新を併せ持つ活動を続けている。今回は、第68回新協美術展の会場で、伊藤氏、斎藤氏、橋本氏、畑山氏、竹内氏にお話を伺った。1957年に設立された新協美術会は、絵画・写真・工芸・彫刻の4部門を擁する全国組織の美術団体だ。「自由で公平な運営」を理念に掲げ、伝統と革新を併せ持つ活動を続けている。今回は、第68回新協美術展の会場で、伊藤氏、斎藤氏、橋本氏、畠山氏にお話を伺った。
―まず最初に、設立の背景や理念について教えていただけますか。
- 伊藤 新協美術会(以下、「新協」と略記)は1957年から続く全国組織の美術団体です。「自由で公平な運営」を理念に掲げており、絵画・写真・工芸・彫刻の4部門が活動しています。決まりに縛られることなく、それぞれが自由に創作し、作品を発表できることを大切にしています。展示の場としては本展(新協美術展)をはじめ、関西・広島での巡回展を実施してきました。かつては山陰や四国でも展覧会を行っていましたが、運営面から現在は縮小しています。
-
- 斎藤 写真部だけは神戸で巡回展を継続しています。
―関西展について詳しく教えてください。
- 伊藤 大阪市立美術館で関西巡回展を開催していますが、リニューアル工事のため、ここ3年ほどは兵庫の原田の森ギャラリーで開催していましたが今年から元に戻りました。 4年前から併設して「関西アートコンペ」という公募展を立ち上げました。これは若い作家を対象とした企画で、昨年は全国から169名、250点の作品が寄せられました。特に工芸と絵画の間に位置するような新しい表現が多く見られ、従来の団体では考えにくいような作品も集まっています。
―なぜ関西で若い人が中心になっているのでしょうか。
- 伊藤 関西アートコンペは公募サイトのみで募集しているため、若い世代が応募しやすいのです。従来の公募展とはアクセス経路が違うのが大きな特徴です。
-
- 斎藤 作品傾向も変化していて、古い公募展にはない新鮮な作品が多いです。
-
- 伊藤 審査する側にとっても新しい表現が多く、評価が難しい場面があります。
―応募者の意識にも変化はありますか?
- 伊藤 本展では会員になることを目指す人が多いですが、若い世代は所属よりも「自分の作品を見てもらいたい」という思いで応募している印象があります。
-
- 橋本 新協は作品の幅が広く、古典的なものから斬新なものまで評価されます。それが出品者に「自由に描いてよい」というメッセージになっていると思います。
-
- 畑山 これは創設時から続く精神がそのまま残っている証拠でしょうね。
―新協の特徴について、他団体と比べてどう感じられていますか?
- 伊藤 新協は「この絵でなければならない」という制約がなく、自由に表現できる点が大きな特徴です。また、上下関係が少なくフラットな組織で、会費も比較的安く運営しています。
-
- 橋本 さらに民主的な合議制で審査や運営が行われ、外部の美術評論家も審査に参加していただきます。外部審査員は1人ですが、公平性を保つために票の重みを大きくしています。そのため、外部審査員の1票で結果が大きく変わることもありますね。
-
- 斎藤 ロゴマークも特徴的で、顔のように見えるデザインは「対話」を象徴しています。一見すると論争のように見えるかもしれません(笑)。でも実際は議論が終われば次に進む、フラットな雰囲気です。
―最後に、今後の展望についてお聞かせください。
- 伊藤 運営には美術館の会場費など大きな負担があります。現状は会費でまかなっていますが、継続には会員を増やすことが不可欠です。また、大きな作品を描くことが従来は重視されてきましたが、小さくても質の高い作品が評価されるようになっています。
-
- 斎藤 かつての公募展は、安井賞を目指すために大作が主流になりましたが、今は必ずしも大きさが重要ではありません。小作品でも大作に勝って受賞することはもちろんあります。
-
- 畑山 美術は、人間にとって食べ物と同じように必要なものだと考えています。新協は、美術を欲している人の受け皿として存続することがもっとも大切なことだと思いますね。
-
- 伊藤 関西アートコンペはその一歩だと思います。若い人を対象にした全国規模の公募は珍しく、今後も広げていきたいです。
-
- 畠山 ただ、全国的に文化団体や教室が減少しており、会員の高齢化も課題です。若い人がなかなか入ってこない中で、今は過渡期にあると感じています。
-
- 伊藤 美大を出ても団体に所属しない人が多く、絵だけで生計を立てるのも難しい時代です。それでも美術館で実物を展示する意義は大きく、そこにこそ団体の存在価値があると思います。実際に作品を前にしたときの感動や、作家との対話は何ものにも代えがたいものです。
-
- 畠山 絵を「好きな人」の数は減っていません。ただ始めるのが遅くなったり、生活環境や住環境の制約で制作が難しい面があります。特に大きな作品を描くスペースがないという問題もありますね。
-
- 伊藤 そうした課題はありますが、私たちは自由で開かれた創作の場を守り続けたいと思っています。
-
- 半世紀以上にわたり活動を続けてきた新協美術会。
- 時代の変化とともに課題も増えつつあるが、「自由な創作と交流の場」を守り、次世代へとつなげていく姿勢は揺るがない。
- 第68回展にも、その精神は確かに息づいていた。
(文・写真・構成=庄司 燈)
当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。