artkoubo MAGAZINE
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太平洋美術会
自由かつアカデミックに美術の神髄を追求

2020/02/18
明治から令和まで5世代に及ぶ歴史の中で、日本画壇に名を残す幾多の俊英を輩出してきた太平洋美術会。明治37年(1907)に後進育成の目的で開設した洋画研究所は、現在「太平洋美術会研究所」と名を改め、プロアマを問わず美術を愛する者たちの修練の場となっている。そこで今回は、太平洋美術会研究所の授業内容や指導法について研究生に話を聞き、後半では第115回太平洋展受賞者の作品と創作も紹介する。
アトリエ内
アトリエ クロッキー風景
意欲ある者すべてに門戸を開く、伝統ある画塾
  • アクセス便利な西日暮里に、ギャラリーを兼ねたアトリエを構える「太平洋美術会研究所」。設立以来拠点としていた谷中から移築して、早60余年。上野から近いこともあり、ひと頃は藝大の現役学生や受験を控えた若者が足繁く制作に通い、ここで制作に没頭していたという。歴代の指導者には中村不折や吉田博、満谷国四郎、石川寅治らがおり、門下生には足立源一郎や古賀春江、井上長三郎、麻生三郎、堀信二など日本画壇を代表する作家が名を連ねる。
  • アトリエは地下から自然光がたっぷり降り注ぐ2階まで3フロアあり、講座は絵画、版画、彫刻、クロッキーの4部門を設置。数年後には染色部門の増設も計画中だ。受講スタイルは、マティスやミュシャ、デュシャンを輩出し、同研究所からも中村不折をはじめ多くの画家が留学したパリの名画塾「アカデミー・ジュリアン」を参考に構成され、初心者でも着実に力を養うアカデミックなシステムを確立している。
(左)結成当時の写真(右)歴史を物語る資料
お話を伺う
佐藤之莉(のり)さん(絵画)
素晴らしい先生方と制作環境に惹かれて
「絵は学生時代に描いていましたが、家事や子育てに追われてずっと中断していました。そんな折、たまたま友人からチケットをもらって見に行った太平洋展に感激し、また描きたいという気持ちが芽生え、この研究所に見学に来ました。歴史ある画塾で、作家としても素晴らしい先生が揃っていること、教室がアトリエであることに魅力を感じ、通い始めてかれこれ7年になります。チケット制で時間の融通が利くので、忙しくても続けられるんです。先生方の指導はわかりやすく的確で、なるほどと思うことばかり。今は私も太平洋展に出品しているので、展覧会が近づくとここで集中して制作し、アドバイスもいただきながら充実した時間を過ごしています」
佐藤之莉(絵画会友) 街と少女
長谷川裕子さん(クロッキー)
個性を尊重した指導と和やかな雰囲気が魅力
「20年ぶりに絵を描きたいと思い、3年前から太平洋美術会研究所に通っています。趣味でダンスを習っていることもあり、体の動きに興味があったので、人体クロッキーができるところを探してここにたどり着きました。太平洋美術会や研究所の歴史も何も知らずに来たのですが、創設者の浅井忠先生の出身校が私の母校の前身だったと知り、縁を感じました。ここは雰囲気が和やかで、指導もこうしなさいという押し付けがないところがいいですね。その人に合った参考作品などを見せたりしながら、さりげなく個性を伸ばす方向に導いてくれるんです。最近は彫刻科のムービングクロッキーにも参加するようになり、描く楽しさにすっかりはまっています」
クロッキー
高浜礼子さん(彫刻)
アトリエで過ごす時間が大きな刺激に
「一昨年の夏、先輩会員の方から研究所が開催する夏期講習の話を聞き、かねてから興味のあった彫刻をやってみたくて参加しました。テラコッタの経験はありましたが、石膏は初めて。首像をつくったのですが、何もわからない私に先生方が手取り足取り親切に指導してくださり、いろいろな発見をしながら一週間、とても楽しく、深く勉強させていただきました。その経験から立像にも挑戦したいという意欲が沸き、今は週に2回ほど研究所に通っています。モデルさんを前に集中して黙々と取り組んでいる皆さんの姿を見ているだけでも刺激を受けますし、授業が終わってもアトリエを開放してくれるので、制作意欲のある人には理想的な環境だと思います」
高浜礼子(彫刻会友) 花色衣
宮田直美さん(版画)
忘れていたものづくりの楽しさに開眼
「昔、駒井哲郎さんの銅版画を見た時の感動が忘れられず、子供が独立したのを機に太平洋美術研究所の版画講習会に参加したところ、銅板の面白さに魅了されてしまいました。美術は学生の頃にデザインを学んで以来ですが、ここに来ると長いブランクも忘れて自然に当時に引き戻され、つくる喜びを思い出させてくれるんです。カルチャーセンターのように行けばすべてセットされているわけではなく、ここでは準備も含めて制作なので、どういう風につくろうかと考えながら準備をする時間も楽しいんですよ。習い始めてちょうど1年。刷ってみたらイメージとは全然違ったり、まだまだわからないことも多いですが、この先を楽しみに続けていきたいですね」
宮田直美(版画会友) Hand―2
左から 佐藤之莉(絵画部門)、 宮田直美(版画部門)、高浜礼子(彫刻部門)、長谷川裕子研究所(クロッキー部門)生徒の皆さんと 後列 櫻井一先生、鈴木國男先生(敬称略)
太平洋美術会研究所 生徒募集
  • 美へのチャレンジを応援します
  • 絵画教室/本科・研修科
  • 彫刻教室/本科・研修科
  • 絵画/土日講座
  • 版画/土日講座(木版・エッチング)
  • クロッキー科(土曜日1時より簡単な手続きでどなたでも)
  • 詳細はホームページをご覧ください。
  • https://www.taiheiyobijutu.or.jp/labo
4部門それぞれに見ごたえのある「太平洋展」
  • 毎年、多くの美術ファンを集客する「太平洋展」が、今年もいよいよ5月13日から国立新美術館で開催される。以下に紹介するのは、去年の第115回太平洋展で上位賞を位受した作家・作品。絵画、版画、彫刻、染色の4部門による多彩な競演は、太平洋展の特色のひとつだ。
  • 出品料は、25歳以下および今年に限り外国籍者は6500円。実力を試したい人、作品発表の場を探している人は、ぜひ挑戦して受賞作家たちと肩を並べて展示されるチャンスを掴んでほしい。
西村純子さん/絵画(第115回記念太平洋展 内閣総理大臣賞)
「アクリルや油彩、コラージュなどを取り入れたミクストメディア作品を作り続けています。“ラフレシア”は私の長年の制作モチーフ。数年に一度しか咲かないといわれる世界最大級のグロテスクな花で、咲いているのはほんの数日だけ。その間、酷い悪臭を放ち続け、汚い虫を呼び寄せるんです。この作品は、そんな毒々しい花から見た人間の世界を想像して描きました。支持体に金屏風を用いているのですが、下地の金を活かして構図も余白を意識した方がいい、という先輩からのアドバイスがとても参考になりました」
西村純子(第115回記念展 内閣総理大臣賞受賞)
  • プロフィール
  • 名古屋学芸大学短期大学部美術デザイン科卒
  • 1992~1995年 ニューヨーク在住
  • 2011年 千葉県美術会展 県美術会賞 会員推挙
  • 2012年 第108回太平洋展 太平洋美術会賞
  • 2013年 第109回太平洋展 会友努力賞
  • 2014年 第110回太平洋展 奨励賞
  • 2015年 第111回太平洋展 損保ジャパン日本東亜美術財団賞
  • 2016年 第112回太平洋展 会員秀作賞
  • 2017年 第113回太平洋展 東京都知事賞
  • 2018年 第114回太平洋展 荒川区長賞
  • 2019年 第115回太平洋展 内閣総理大臣賞
  • 現在、太平洋美術会運営委員。千葉県美術会会員(準委嘱)
西山彰さん/版画(第115回記念太平洋展 荒川区長賞)
「自分の作品は、自分の生きた時代に対する領収書。このように世界を受け取りました、という証だと思っています。毎年作風が違うとよく言われますが、自分の中では通底するものがあるんですよ。ストーリーを描いているような感覚で、同じ小説家が時代劇も書けば現代劇も書くように、文体が一貫していれば表現はいろいろあっていい。畳一枚分のサイズのパネルにチョークで当たり描きしたら、あとはいきなり彫り始めます。そのほうが、ガチガチに決めて彫るより、活気が出て面白い仕上がりになりますね」
版画 西山 彰(第115回記念展 荒川区長賞受賞)
  • プロフィール
  • 1955年、東京生まれ。独学で版画を、太平洋美術学校(現太平洋美術会研究所)でデッサンと油絵を学ぶ。
  • 1986年 第82回太平洋展初出品
  • 1989年 第85回太平洋展 渡邊木版賞 会友推挙
  • 1993年 第89回太平洋展 渡邊木版賞 会員推挙
  • 2001年 第97回太平洋展 会員秀作賞
  • 2007年 第5回池田満寿夫記念芸術展入選
  • 2009年 日本版画協会版画展初入選
  • 2015年 第111回太平洋展 会員秀作賞
  • 2019年 第115回太平洋展 荒川区長賞
  • 2019年 第75回ハマ展 毎日新聞社賞
  • 2020年 Galerie SATELLITE(Paris)にて個展開催予定
吉川敏夫さん/彫刻(第115回記念太平洋展 文部科学大臣賞)
「邪鬼というと四天王に踏みつけられている悪者のイメージですが、仏教では自分の身を差し出して仏様を守っているという意味合いもあるのだそうです。その話を聞いてとても感動し、作品にしてみたいと思いました。自分は仏師ではないので、仏様は一生彫ることはできませんが、その精神性に近づきたいという思いがあるのかもしれません。これまで蓮の花をモチーフにすることが多かったのは、あくまで植物として好きだったからに過ぎませんが、邪鬼も蓮の花も、自分の中ではすべてひとつにつながっているんです」
彫刻 吉川敏夫(第115回記念展 文部科学大臣賞受賞)
  • プロフィール
  • 1947年、東京生まれ。福島県いわき市の性源寺をはじめ、公共施設や個人宅の設計・施工・改装・健具・オブジェなどを手がける。飯能市名栗に工房を構え制作に勤しむ傍ら、近隣のギャラリー名栗の杜を運営し、多様なアート情報を発信している。
  • 2008年 第104回太平洋展 佳作岡村賞
  • 2009年 第105回太平洋展 内閣総理大臣賞ノミネート
  • 2009年 第105回太平洋展 第105回記念賞 会友推挙
  • 2011年 第107回太平洋展 会員推挙
  • 2013年 第109回太平洋展 会員秀作賞
  • 2019年 第115回太平洋展 文部科学大臣賞
田中隆夫さん/染色(第115回記念太平洋展 損保ジャパン日本興亜美術財団賞)
「石神井公園が好きで四季を通じて描いていますが、雪景色はなかなか見られないんですよ。ずっと雪の日を待ち続け、数年前、やっと実現しました。その時の何とも言えない幻想的な風景を、ろうけつ染めで表現したのがこの作品です。微妙な淡い色調の中で奥行きを出すため、ろうを被せては染めるという工程を15~20回ほど繰り返しています。一般に染色はもっと平面的なので、絵画と間違えられる方が多く、染色と知ると驚かれますね。そういう意味ではオリジナルの表現方法なのかなと思っています」
染織 田中隆夫(第115回記念展 損保ジャパン日本興亜美術財団賞受賞)
  • プロフィール
  • 1951年、埼玉県生まれ。
  • 1974年 東京手描き友禅伝統工芸士 山崎晴久氏に師事
  • 2007年 第103回太平洋展 初入選
  • 2011年 第107回太平洋展 会員推挙
  • 2014年 第110回太平洋展 会員秀作賞
  • 2019年 第115回太平洋展 損保ジャパン日本興和美術財団賞
  • 2020年 ギャラリーHANA 下北沢で第5回 「染色画展」開催
左から:西山彰(版画)、吉川敏夫(彫刻)、西村純子(絵画)、田中隆夫(染色) (敬称略)
公募情報
太平洋美術会
第116回 太平洋展

第116回 太平洋展開催中止のお知らせ

2020年4月1日更新

太平洋美術会は第116回 太平洋展を、全面中止致します。詳細につきましては、太平洋美術会公式サイトをご覧ください。 太平洋美術会公式サイト

  • 会期
  • 2020年5月13日(水) ~ 25日(月) ※休館日5月19日(火)
  • 10:00〜18:00(5月15日(金)・22日(金)は10:00~20:00)
  • 最終日10:00~15:00
  • 会場
  • 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
  • 種類
  • 自作未発表の油彩、水彩、版画、彫刻、染織作品を出品することができます。
  • 点数
  • 各種別とも制限しません。
  • 会期
  • 油彩(30号以上500号まで)・水彩(30号以上80号まで)、版画・染織は特に制限しないが壁面に耐えられる大きさとし、彫刻は美術館規定によります。額装のガラスは不可(アクリルは可)。なお、一般者のみを対象として、油彩・水彩・パステルなどで「20号限定サイズ作品」を募集します。
  • 作品の大きさ
  • 東京都美術館
  • 出品申込締切
  • 2020年4月10日(金)
  • 搬入日時
  • 2020年5月4日(月・振休) 10:00〜15:00
  • 出品料
  • 各種別とも一部門につき2点まで
  • 一般は11,500円、但し、25歳以下は6,500円(証明書写し添付)。
  • 会員・会友は13,500円(ともにカラー図録代・送料含む)。
  • 会員・会友・一般とも1点増すごとに2,000円加算。「20号限定サイズ作品」も一般と全て同じです。
ART公募内公募情報 https://www.artkoubo.jp/taiheiyobijutsu/
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