artkoubo MAGAZINE
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[File66] 春陽会
人の生や歴史に思いを馳せながら、心の内を見つめて描く

2021/01/21
今回ご紹介する作家は、一昨年、第96回春陽展で春陽会賞を受賞した、同会会員の冨田泰世さん。社会的な感染症問題で本展の中止などさまざまな活動が制限される中、自身のペースを大切にしながら意欲的に制作に取り組んでいる。個展会場のGallery 219(ギャラリーニイク/渋谷区神宮前)を訪ね、創作活動の原動力や筆に託した思いについて話をうかがった。
仕事や子育てを経て、今なお絵と共に
  •  女子美短期大学の彫塑教室から女子美術大学の芸術学部造形学に編入し、本格的に絵を描き始めた冨田泰世さん。卒業後は大手百貨店の美術工芸品サロンに勤務。就職と同時に絵からは離れていたが、日々美術品に触れる中で再び描きたいという思いが膨らみ、大学時代の恩師に相談したところ、勧められたのが春陽会だった。
  • 「春陽会は著名な先生もたくさんいらっしゃいますが、絵とはこういうものだという固定概念や決め付けがなく、寛容で、余白があるんです。出産を機に仕事を辞めた後も、毎年春陽展に出品することを目標に、絵は描き続けていました。器用な性質ではないので、子育てとの両立は難しかったです。それでも続けてきたのは、やっぱり絵が好きなんでしょうね。女子美の先生が時々個展の案内を送ってくださったので、そういう刺激もありました」
  •  しかし多忙の合間を縫い一人で描いていると、ともすれば視野が狭くなり、自分しか見えなくなってしまうことも。丁度そんな時、ある光景に遭遇し、気づきと力を与えられたという。
  • 「春陽展の展示のお手伝いに行ったら、会場裏の部屋に見たこともないくらいたくさんの絵が、ぶわーっと山のように積まれていたんです。その膨大な数に圧倒され、あ、こんなに絵を描いている人がいるんだ、すごいなぁと感動してしまって。皆いろいろ大変なんだろうけど、こんなに一生懸命描いている人たちがたくさんいるんだな。自分一人じゃないんだなと実感した瞬間でした」
  • 子供が手を離れて時間に余裕ができると研究会に通い、集中して制作に取り組み始めた。これまで一人で完結していた作品を先輩作家や仲間の目に晒すことは、緊張感も張り合いもあり、「鍛えられています」と語る表情は楽しそうだ。2年前から個展やグループ展も積極的に開催。作家として充実した日々を送っている。
左 dream planet
中央 ヘソ 一
右 ヘソ 二
「デビルフライ・デビルクラッシュ」S50号
好きなモチーフを追い続け、育てて行きたい
  • 「ねこ」と「たまご」は、冨田さんが長年追求しているモチーフ。今回、開催した個展も『NEKO-TAMAGO2…』と題し、雪とも泡ともつかない、ふわふわもこもこした中から、今にも何かが生まれ出てきそうな、美しくも不思議な世界を繰り広げた。
  • 「自分の好きなものを描いて行こうと思い、15年近く前からこのモチーフで描き始めました。最初の頃はネコと卵を具体的に組み合わせて描いていたのですが、次第に特徴から連想していくようになり、ネコはふさふさの毛だけになって、卵はどんどん増殖していく…。そんな象徴的な感じに変わってきました。果てしなく増えていく、生命力の源のようなイメージです。生きていれば必ず死はありますが、死んだとしても完全な無にはならないんじゃないかと思うんです。それは亡骸の中の微生物なのか、何なのかわかりませんし、死後の世界なのかもわかりません。でも絶対にゼロにはならないと思うので、そういう生死を超越した世界を思いながら描いています」
  •  画材は卵テンペラの下地と墨の組み合わせをメインに、作品によってアクリルなど他の素材も使い分ける。構図は決め込まず、想像力を解放し、描いていくうちに思い浮かんだ一瞬のイメージを掴み取り、キャンバスに表現していくのが冨田さんのスタイルだ。絵をどんな風に見て欲しいか、伝えたい思いについて尋ねると、「ただ自由に楽しんで見ていただければ」という言葉と共に、絵に対する姿勢が垣間見える、飾りのない真摯な返事が返ってきた。
  • 「時代を表そうと思って絵を描いているわけではないのですが、生きていればこうした感染症や災害など、社会の出来事を否応なしに感じますよね。そういうものは、自分が好きなものを通して端々に表れるんじゃないかと思うんです。もともと絵は壁画から始まり、それが神話や宗教、権力、科学などさまざまなものとつながって進化してきました。その中で、今、自分が生きて、絵を描くということは、どういうことなのか。そんなことをいつも自分に問いながら描いている気がします」
  •  当座の抱負は「描き続けていくこと」。子育てに奮闘し、我が子の成長を見守り慈しんできたように、今のモチーフを大切に育て、その過程で見える景色を根気強く作品にまとめ上げたいという。ねことたまごが織り成す世界は、どう変容していくのか。先を楽しみに待ちたい。
左 planet
中央 ねこたまご
左 スミカ 二
第95回春陽会賞「ソコノソコノ三」S100号
第96回春陽会賞「ポコポコホコラ六」F130号
TWICE UP
冨田泰世 (とみた・やすよ)
  • プロフィール
  • 1990年 女子美短期大学彫塑教室卒業 日彫展入選
  • 1992年 女子美術大学芸術学部造形学卒業 卒制優秀作品賞
  • 2006年 第8回雪梁舎フィレンツェ賞展佳作賞(第9回、第19回佳作)
  • 2015年・2017年 春陽展奨励賞
  • 2018年・2019年 春陽展春陽会賞
  • 2019年 NEKO TAMAGO展 YASUYO TOMITA(個展)/全労済ホール・スペース・ゼロ展示(新宿)
  • 2019年 TWICE UP!Ⅲ PART4(グループ展)/あかね画廊(銀座)
  • 2020年 画・展 青ク記ス鳥タチ(グループ展)/ギャラリー尾形(福岡)
  • NEKO TAMAGO2…YASUYO TOMITA(個展)/ 神宮前ギャラリー219(神宮前)
春陽会新理事長より
  • ~春陽会の魅力~
  • 常に公平公正さを信条として会の運営がなされているのが春陽会です。
  • 作品審査は会員全員により行い、受賞者選考も全会員の投票で行われます。
  • 多様な表現や作風を認め、自己との闘いである作品制作を真摯に受け止め、厳しさと温かさの両面をもって公正に評価します。
  • 絵画と版画の作家集団として、時に温かく見守り見守られ、時に厳しく見つめ見つめられる関係を保ちながら、お互いの研鑽の場として良い緊張関係が維持されています。
  • 「作家個々が自律し、互いに尊重し合い協調する」という会設立時からの「各人主義」の精神が今なお継承されています。
  • ~若い方々へ~
  • 価値観が多様化している現代、いろいろな表現があって構いません。ひたむきに取り組む姿勢には画面から必ず伝わるものがあります。若い人たちには自分の表現と可能性を求めて挑戦してほしいと思います。春陽会を自己成長の場として活用してもらいたい。そして、会だけに固まるのではなく、個展やコンクール展など、どんどん外に向かって発信してほしい。そういう意欲ある人を支えていく姿勢が、春陽会にはあります。
春陽会小池理事長
小池悟(こいけさとる)
  • プロフィール
  • 1960年 長野県長野市生まれ。
  • 1988年 東京藝術大学大学院美術研究科油画修了
  • 1998年 第75回春陽展 初出品
  • 2006年 第82回春陽展 奨励賞
  • 2007年 第83回春陽展 春陽会賞、会員推挙
  • 2009年 第11回雪梁舎フィレンツェ賞展 佳作賞
  • 個展[銀座スルガ台画廊]-88,89,08,15-他、グループ展多数
  • 現在 春陽会理事長 日本美術家連盟会員
(文・構成=杉瀬由希)
公募情報
春陽会
第98回 春陽展
  • 日程
  • 2021年4月14日(水)〜4月26日(月) ※20日(火)休館日
  • 会場
  • 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
  • 名古屋5月18日~23日、大阪6月1日~6月6日に巡回
  • 《作品公募》
  • 搬入
  • 2021年4月1日(木)・2日(金)
  • 部門
  • 絵画=194×162cm(F130号)以内。
  • 版画=200×150cm(額外寸サイズ)以内。
  • 各部門6点以内
  • 出品料
  • 1人3点まで10,000円 (4点目以降、1点につき2,000円)
  • ☆ 初めて春陽展に出品される方に限り、出品料を半額割引。
  • ☆ 出品ご希望の方は下記A~Cいずれかの方法で資料請求をしてください。
  •  (第95回・96回展に出品された方は資料請求の必要はありません。第98回展の出品目録をお送りしますので、住所変更のある方はご連絡ください。)
  • A. 春陽会WEBサイトから  shunyo-kai.or.jp/shunyo-ten
  • B. FAX 03−6380−9467
  • C. 郵送 〒102-0085 千代田区六番町1 番町一番館
  •  春陽会事務所 出品資料係
  • 新型コロナ感染症防止対策のため、日程及び時間が変更になることがあります。
  • 詳細は当会ホームページ(shunyo-kai.or.jp)でご確認ください。
ART公募内公募情報 https://www.artkoubo.jp/shunyokai/
団体問合せ
  • 春陽会
  • 〒102-0085 千代田区六番町1 番町一番館 春陽会事務所
  • 03-6380-9145
  • 03-3821-7139
  • http://shunyo-kai.or.jp/
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